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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)709号 判決

主文

理由

上告代理人堀部進の上告理由について。

原審が認定したところによれば、本件売買契約において、上告人は、売買残代金二八万円を昭和四四年三月二七日までに訴外株式会社名古屋相互銀行五月通支店から借り入れて被上告人に支払うことを約し、その借入手続は、まず上告人において借入に必要な借入申込書および印鑑証明書添付の信用保証委託書等の書類を被上告人に交付し、次いで被上告人が右書類によつて上告人のために同支店に借入申込の手続を代行し、その被上告人が同支店に赴き右金員を借入れることと定められていたというのである。したがつて、もし、被上告人が上告人から前記の所要書類を受領しながら、同人のために同支店に右借入申込の手続を代行していなかつたとすれば、同人は、右残代金の履行期と定められた昭和四四年三月二七日を過ぎても、正当にその支払を拒絶することができ、また、同日までにその支払をしなかつたことをもつて、履行遅滞の責に任ずべきものではない。

ところが、原審は、被上告人が上告人から前記の所要書類を受領しながら前記の借入申込の手続を代行したか否かの点につき、何らの判断をも示すことなく、たやすく、上告人が右期日までに右残代金の支払をしなかつたことをもつて、履行遅滞の責に任ずべきものとし、これを理由とする本件解除を有効として、被上告人の本訴請求を原判示の限度で認容すべきものとしたことには、理由不備の違法があるものといわなければならない。

論旨は、理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず、原審において右の点につき更に審理を尽くさせるのを相当とするから、右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻すこととする。

(裁判長裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

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